03 昭和6(1931)年に発行された総ページ数660頁、鹿が入浴している絵柄の布張り表紙を施した旅行ガイド『温泉案内』に「然別湖畔温泉」が紹介されています。「然別夫婦山の中腹、海抜八〇〇米メートルの高所に占め、周囲一六粁キロメートルの然別湖畔にある。湖は水深二※〇〇米に及び、寛に北海道小沼中最深のものといはれ、漫々たる水は原始林を倒映し、幽玄太古の趣があり、岩いわな魚、ザリガニ、山さんしょううお椒魚など産する。湖畔一帯に咲く紫むらさきつつじ躑躅、石しゃくなげ楠花の初夏もよく、雁鴨などの飛来する秋紅葉の頃も人出が多い。湖上遊覧には旅館にモーターボートの設備がある(以下省略)」(※現在の調査結果では100m)然別湖の景色に溶け込む木造屋根の露天風呂。刻々と変化する大自然の風景を見ながら、湯のぬくもりで心も体も満たされる。Lakeside Hot Spring “FUSUI” 昭和6年は現在、湖畔の一軒宿として開業する「然別湖畔温泉ホテル風水」の前身、「ホテル光風館」が開館した年です。然別湖開拓の祖と呼ばれる清野正次が、大正11(1922)年に北海道庁から温泉場としての免許を受け、然別湖に温泉旅館を開業してわずか9年後には、その評判が全国に知れわたっていたのです。 その歴史もさることながら、この温泉が全国的にも貴重である理由は、まもなく開湯100年を迎える現在でも、周囲の環境がほとんど変わっていないことです。温泉場として認められた当時の圧倒的な原生的自然の風景、きらめく湖水や空気、豊かな動植物と生物の多様性など、太古から連綿と続く森羅万象に囲まれながら、源泉かけ流しの湯を存分に楽しめるリゾートは、そうそうありません。 手のひらで握りしめられそうなほど質量感のある泉質は、まさに源泉かけ流しの湯。湖にせり出した露天風呂につかれば、心地よい湯の圧を受けながら温泉成分が体に染みわたり、悠久の時と大地と同化する豊かな感覚が味わえます。明治13(1880)年、山形県の医師の六男として生まれた清野正次が、新得村(新得町)に移住し、北海道庁から許可を得て然別湖畔温泉を開業。写真上は清野兄弟が手造りした温泉小屋。写真上/然別湖の特等席で過ごせる客室。写真左/夕食では、湧き水で育成されたオショロコマをはじめ、地場食材をふんだんに使った料理が堪能できる。「然別湖畔温泉 ホテル風水」【宿泊料金】1泊2食付き:9,350円〜(入湯税150円別)【日帰り入浴料】大人1,000円、小人500円12:00〜17:00◎北海道河東郡鹿追町然別湖湖畔TEL:0156-67-2211www.hotelfusui.comFall &Winter 2021『温泉案内』(博文館:昭和6年初版)特別室料理時と空間が混じり合う開湯100年源泉かけ流しの湯「然別湖畔温泉 ホテル風水」
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