十勝平野北部に位置する鹿追町は、初夏から夏の終わりにかけて、早朝から昼前まで霧に包まれることがあります。日中に温められた水分を多く含む大地の空気が、夜半から朝にかけて然別湖方面から降りてくる冷たい空気に触れ、広い範囲で霧が発生するためです。朝、街で目を覚まして「今日は曇り空かな」と思っても、道道85号鹿追糖平線を然別湖方面へ向かってみてください。わずかに高度を上げただけで景色は一変し、霧が晴れて雲海が広がっているかもしれません。台」から南を眺めれば、十勝平野全体が霧にすっぽりと覆われ、南西側には日高山脈の峰々がそびえる、圧倒的な絶景を見ることができます。雄大な十勝平野を一望できるビューポイント「扇ヶ原展望こうした美しい霧の発生により夏の気温上昇が和らぎ、鹿追町の農地に大切な水分が供給され、大地と人々が潤されます。そして、湿度を含んだ霧は、然別川上流部へ続く河畔林にも影響を与え、森の生き物たちが夏場、健やかに暮らしていける環境も整えてくれるのです。霧に誘われるがまま散策すれば、然別川沿いの川面にも霧が現れ、おとぎ話のような幻想的な風景の中で草をはむエゾシカの親子や動物たちに出会えるかもしれません。旅先で霧が出ると少しがっかりするかもしれませんが、鹿追町の濃い霧の先には、多様な自然の世界が創る、美しい風景が広がっているのです。鹿追町平野部に広がる林と畑。ジャガイモやテンサイ、名物のソバなど、大地のキャンバスに異なる色調のコントラストが描かれる。 写真上/キュートなエゾモモンガは、北海道各地に生息するタイリクモモンガの固有亜種。最長50mほど滑空できる飛膜を持つ。写真下/食事中のエゾシカの子ども。動物たちの自然な姿に出会えるのも鹿追町ならではの風景。十勝平野を覆う厚い霧の上は晴天! 天空の絶景、雲海の向こうにそびえるのは、南北に150km連なる日高山脈。05Spring &Summer 2022The Fresh Air& Artistic Landscape扇ヶ原展望台から望む雲海、きらめく風光、鹿追の自然美
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